その瞳に映るのは、平和な死なのか、それとも戦乱の生なのか。
Tactics
Ogre
「その始源、世界は天と地の区別はなく、スープのような状態であり、ただ虚無だけが満ちていた……。一筋の光がその世界に生まれると、光は闇を作り出した。光からガリンガ、闇からはウンディガという二人の巨人が生まれ、互いにいつ果てるとも終わらぬ戦いを始めた。」
この書き出しで始まる「ゼテギネア神話」は紀元前4000〜3000年頃にバルカン半島東岸、エーゲ海、黒海、カスピ海に囲まれた周辺地域で広く信仰されていた。紀元前3000年頃に小アジアを中心とする地域をヒッタイト人によって統一されるまでは、このゼテギネア神話に登場する神々が崇拝の対象となっていた。
それは19世紀の後半に大規模な発掘調査が実施され、その際に出土した粘土書板から詳細な内容が明らかにされた。この粘土書板は古バビロニア期(紀元前1900〜1700年頃)のもので、表面に記された楔形文字はシュメール語で書かれていた。メソポタミアから発見された作者は不明だがその内容からシュメール人の歴史学者と推定される。
その粘土書板には世界の創世から人類の誕生、そして神々の戦争といった神話やゼテギネア期の歴史が語られており、発見された遺跡の名ゼンダから「古ゼンダ」として世に知られたのは周知の事実だ。「古ゼンダ」には、数多くの英雄の冒険譚や事件が記述されており、神話だけでなく史実として人々の生活をかいま見ることができる。
「古ゼンダ」の発見後、1895年にフランスの調査隊によって古都ダウラ(黒海沿岸の遺跡)より大量の楔形文字粘土書板が発見された。「古ゼンダ」と同様に古バビロニア期のものと推定され、やはりシュメール語で書かれていた。
その内容は神話や英雄伝説を元に書かれた一大叙事詩であり、ギリシャ神話を伝えるホメロスの「オデュッセイア」や「イリアス」に匹敵するほどの大発見として世を騒がせた。これが有名な「オウガバトルサーガ」である。
これには、「神々が人間を創生した頃、魔界では悪魔たちがオウガと呼ばれる悪鬼を作り出し、下僕とした。今では冥界だけでなく魔界までも統べるデムンザの策略によって、人間たちはオウガと大地の覇権を巡って争わねばならなくなった。戦いは何千年にも及び、戦火は地上だけでなく天界の神々や魔界の悪魔たちをも引き込んだ大戦争となった」と「古ゼンダ」にも記述されているオウガバトルから、大陸の統一(紀元前3200年頃)までが全8章で描かれている。
ゼテギネア神話には数多くの英雄たちが登場するが、このサーガでは大陸統一を果たしたゼノビア王朝の変遷に焦点をおいて脚色されている点が注目される。中でもラプニカ王女と剣士グランの悲恋に代表される悲劇が多く、刹那的な世界観が当時の人々の生活に与えた影響をはかり知ることができるだろう。
「古の昔、力こそがすべてであり、鋼の教えと闇を司る魔が支配するゼテギネアと呼ばれる時代があった」の一節で有名な「オウガバトルサーガ」だが、そのいくつかのエピソードはオペラや舞台劇の題材となっており、20世紀に入ってからもブロードウェイやハリウッドなどで作品化されている。
例えば「オウガバトルサーガ」第7章は、オベロ海の西に浮かぶヴァレリア島をめぐる覇権争いが描かれている。王の死後秩序を失う海洋王国ヴァレリアが、それぞれの民族に別れ、内乱へと突入していく。バクラム・ヴァレリア王国とガルガスタン王国そして行き場のなくなってしまったウォルスタ人たち。ヴァレリア島をめぐるその戦いは、一種の英雄伝説としても非常に優れたものであり、また「オウガバトルサーガ」の中のエピソードとしても秀逸のものである。過去にも良く好まれて作品化された代表的な「オウガバトルサーガ」といえるだろう。
残念ながら日本での知名度は低くギリシャ神話や北欧神話に目を奪われがちだが、その第5章がスーパーファミコンゲームに登場したのは記憶に新しい。今後は日本でもその認知度は上がっていくのではないだろうか。研究者の一人として期待したいと考えている。
古代地誌研究所
松谷高明著「オウガバトルサーガ研究序説」* より抜粋
*1969年初版が古代地誌研究所から刊行。抜粋は1993年刊行の11版より
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