機動戦士Ζガンダム・前史(前編)

 ここでは、「機動戦士Ζガンダム」の前史として、「機動戦士ガンダム最終話後〜機動戦士Ζガンダム第1話」までの部分を解説していきたいと思います。「機動戦士ガンダム・前史」同様に、細かくというよりは、大まかに分かりやすく、を重視した解説にしたいと思います。
 また、出来れば「機動戦士Ζガンダム」のTV版、もしくは劇場版をご覧になった上でお読みいただけると、より分かりやすいかと思います。

 このページでは前編として、「機動戦士ガンダム最終話後〜デラーズ紛争開始」までを解説したいと思います。



 グラナダ条約

事柄
0079 12 31 ア・バオア・クー陥落。ギレン・ザビ総帥、キシリア・ザビ少将戦死。
0080 01 01 月面都市グラナダにおいて地球連邦政府とジオン共和国臨時政府との間に終戦協定締結【一年戦争終結】

 ジオン公国を支配していたザビ家は、一年戦争の最終段階において、ドズル・ザビ中将の娘ミネバ・ザビを残して全員が死亡しました。ミネバ・ザビは、当時まだ赤子でしたので、指導者に据えるわけにはいきません。また、公国の支配体制はギレン・ザビ総帥に権力が集中する形になっていましたので、この体制のままでの国家運営は実質的に不可能となっていました。
 そこで、公国本国にあったダルシア首相を中心とした内閣は、ア・バオア・クーの陥落と、ギレン・ザビ総帥、突撃機動軍司令キシリア・ザビ少将の死亡を受けて、公国制の破棄と共和国制の復活を決定します。

 こうして成立したジオン共和国臨時政府は、ア・バオア・クー陥落から約6時間後、サイド6を通じて、地球連邦政府に停戦協定締結を申し入れます。連邦政府はこれを承諾し、両政府は月面のグラナダ市で終戦協定に調印しました。これが、「グラナダ条約」です。
 この条約で主に決められたのは、サイド3のジオン共和国としての存続承認、戦争責任の不問、共和国の最小限の軍備保有の許可、の3点でした。
 連邦側からすると、勝利したにも関わらず、得られるものが少ない条約の内容ですが、連邦軍宇宙艦隊はレビル大将、ティアンム中将などを失っており、その被害は甚大なものでした。また、公国軍はグラナダに戦力を温存していましたので、これらと再び決戦を行った場合、戦力差から連邦の勝利はほぼ間違いないものの、その被害は相当なものになってしまいます。その結果得られるものと、ここで停戦して得られるものとを比較した際に、大差ないと連邦は判断しました。
 また、サイド3を「共和国」として承認することで、連邦への不満を持つスペースノイドへの牽制になりますし、連邦政府を構成する一国家という扱いにすれば、自治権の制限も容易です。そして、保有軍備を制限することで、将来的にジオン共和国が再度軍事大国化することも不可能となります。
 こうした理由から、連邦は停戦協定を承諾し、グラナダ条約は締結されたのです。



 戦後問題

事柄
0079 12 31 公国軍エギーユ・デラーズ大佐、配下の艦隊とともに戦線を離脱。
0080 01 14 サイド6、連邦政府と安全保障条約を締結。

同月、エギーユ・デラーズ、アクシズ行きを拒む公国軍残党を糾合、艦隊再編制(デラーズ・フリート)。
03
エギーユ・デラーズ、艦隊を暗礁宙域へ移動。繋留基地「茨の園」の設営に入る。対外的な活動は一時休止する。
06 アフリカ戦線の公国軍武装解除(これは連邦政府の公式発表であるが、実際はかなりの部隊が潜伏。ゲリラ化していた)。

 ジオン公国政府は共和制へと移行して、停戦条約締結へと動いていくわけですが、これに反発し、徹底抗戦を叫ぶ声も多数ありました。サイド3の本国とグラナダには戦力が温存されていたため、この戦力を集結させれば、ソロモン、ア・バオア・クーにおける2度の宇宙要塞攻略戦で疲弊した連邦軍の宇宙艦隊を撃退することが可能だったからです。
 ジオン内閣もそのことは分かっていましたが、仮に勝利したとしても、2つの宇宙要塞はすでに連邦軍のものとなっており、連邦軍が艦隊を再編して再度攻めてきた場合には、これを撃退することは不可能でした。そこで、抗戦派を暗殺や拘引するなどして押さえ、強引に終戦協定締結を強行したわけです。
 こうした動きに対して、軍部の抗戦派は本国を脱出し、ア・バオア・クーを脱出した艦隊と合流しました。彼らはジオン共和国政府を認めていないため、連邦との間で締結されたグラナダ条約は無効であり、ジオン独立戦争は継続していると主張しています。しかし、戦争の継続方法については内部で対立があり、小惑星帯にある基地アクシズで時機の到来を待つという一派と、地球圏にとどまって抵抗運動を行うべきという一派に分かれました。
 この中でアクシズへ向かった一派は、ザビ家の忘れ形見となったミネバ・ザビと、その母でドズル・ザビの夫人であるゼナ・ザビを擁し、デギン・ザビ公王の側近であったマハラジャ・カーンを中心としていました。
 地球圏にとどまった一派は、エギーユ・デラーズ中将を中心に糾合され、暗礁宙域に繋留基地「茨の園」を建設、拠点としました。
 また、地球上にも公国軍はいましたが、終戦協定締結後もアフリカ方面の部隊が抵抗を続けています。これらに対し、連邦軍は武装解除させるために部隊を派遣しましたが、武装解除がほぼ完了するまでには半年近くを要してしまいましたし、一部部隊はゲリラ化し、長きにわたって連邦軍の手を焼かせることとなります。



 連邦軍再建計画

事柄
0081 10 13 連邦軍再建計画が連邦議会で可決。
0082 04
連邦軍、ニュータイプ研究機関の設立を決定。

 終戦協定締結後も、連邦軍首脳部は公国軍残党の存在を理由に、準戦争状態であると主張しました。そんな軍部の圧力のもと、連邦軍再建計画が議会で可決します。こうして、国家予算のうち、軍事費が多くの部分を占める予算編成は80年代を通じて続くこととなります。
 連邦軍は終戦後、公国軍の施設を接収、主要なMSを無傷で入手しました。これらは連邦軍内部でのMSの研究開発のために利用されただけでなく、連邦軍のMS戦力としても配備されました。さらに、処分を免れた最新兵器や秘密兵器、各種技術の研究資料は、戦後の連邦軍におけるMS開発を飛躍的に向上させることとなります。Iフィールド・ジェネレーター、サイコミュ・システムなどはこれによって連邦軍にもたらされ、特に公国軍で進んでいたニュータイプ研究は、強化人間の研究へと発展していきます。
 また、公国軍のMS、MA開発の中心企業であったZEONIC社を連邦政府は解体させ、アナハイム・エレクトロニクス社に吸収合併させました。ZEONIC社の技術者は月面に半ば強制的に連行され、アナハイム・エレクトロニクス社のフォン・ブラウン工場が設立されます。




 コロニー再生計画

事柄
0082 05
第1次コロニー移送計画、実施。旧サイド4からジオン共和国へ修復可能なコロニーの移送が開始される(コロニー再生計画)。

 一年戦争によって、地球圏では多くの難民が生まれていました。また、その難民の受け皿となるべきスペースコロニーは、ルウム戦役の際に連邦、ジオン両国が使用した核兵器によりサイド5は壊滅的な打撃を受けており、さらにジオン公国の電撃的侵攻によって、サイド1、2、4が大きな被害を受けている状態です。
 そこで、一年戦争の混乱も収まりつつあった宇宙世紀0082年に、コロニー再生計画が実行されます。
 まず第一陣として、サイド4にある住民のいなくなったコロニーが、ジオン共和国となったサイド3に移送されました。後に、サイド1のコロニーがサイド3へと移送されています。
 この一連の移送作業は、単なるコロニーの再生計画というだけでなく、難民対策という側面があります。そして、それらをすべてジオン共和国に押しつけてしまおうという思惑もあったようです。

 既存のコロニーの再配置というこの計画は、短期的な視点で見た場合は大きな効果を挙げることが出来ました。しかし、長期的な視点で見た場合には急場しのぎの措置である点は否めませんし、連邦政府は新規コロニーを用意するなど、これ以上の事をしようとはしなかったため、難民やスペースノイドたちに大きな不満を抱かせてしまうことになります。



 ガンダム開発計画

事柄
0081 10 20 連邦軍、再建計画の一環としてジョン・コーウェン中将の管理のもと、「ガンダム開発計画」を始動。
0083 09 18 アナハイム・エレクトロニクス社フォン・ブラウン工場にて「ガンダム開発計画」に基づくMS(RX-78GP02A『ガンダム試作2号機』)がロールアウト。
29 同工場でRX-78GP-01『ガンダム試作1号機』及びFb(フルバーニアン)用換装部品ロールアウト。
10 4 同工場でRX-78GP-03『ガンダム試作3号機』ロールアウト。
7 『アルビオン』、アナハイム・エレクトロニクス社フォン・ブラウン工場でGP01、GP02Aを受領。地上試験のために連邦軍オーストラリア・トリントン基地へ出港する。

 一年戦争においてRX-78「ガンダム」の開発に成功した連邦軍ですが、量産までも含めた技術面では、ジオン公国に対して大幅に遅れていることは否めませんでした。
 連邦軍はこの技術格差を埋めるべく、終戦後に公国の開発拠点から接収した様々な資料をもとに、MSを積極的に戦略へ組み込むことと共にMSの更なる高性能化を目指して、ガンダム開発計画を発動させます。
 この計画は、ジョン・コーウェン中将の管理のもと、アナハイム・エレクトロニクス社との極秘プロジェクトとされました。共同開発企業としてアナハイム・エレクトロニクス社が選ばれたのは、ZEONIC社の吸収により、地球圏最大規模のMS開発能力と施設を有していたからです。

 ガンダム開発計画において主軸に据えられたのは、連邦と公国の既存技術の融合と発展です。
 一年戦争時に開発されたMSを大きく分類し、連邦軍より提示された「最強の機動兵器」「必要な機能をすべて有する兵器」といったコンセプトを組み合わせ、複数の設計案がアナハイム・エレクトロニクス社より提出されています。これらを連邦軍はほぼそのまま承認し、結果的に4つの機体がロールアウトしました。
 汎用MSとして開発されたRX-78GP01「ガンダム試作1号機<ゼフィランサス>」、最強の攻撃力を有するMSとして開発されたRX-78GP02A「ガンダム試作2号機<サイサリス>」、宇宙戦闘用の拠点防衛用MAとして開発されたRX-78GP03「ガンダム試作3号機<デンドロビウム>」、強襲用MSとして開発されたAGX-04「ガーベラ・テトラ」がそれになります。これらの機体は、1号機と3号機が連邦系、2号機とガーベラ・テトラが旧公国系の技術陣によって開発され、それぞれのスタッフによって花の名前からとった愛称がつけられました。
 ガンダム開発計画は、開発された機体のトライアルとそのデータの収集、そして新たな機体へのデータのフィードバックをもって役目を終えるはずでしたが、地上試験のためにペガサス級強襲揚陸艦アルビオンに搭載されて地球へ降下した際、公国軍残党の襲撃を受けて2号機が強奪されてしまいます。
 このことが、後の歴史に大きな影響を与えることとなります。



 デラーズ・フリート

事柄
0079 12 31 ア・バオア・クー陥落。ギレン・ザビ総帥、キシリア・ザビ少将戦死。
公国軍エギーユ・デラーズ大佐、配下の艦隊とともに戦線を離脱。
0080 01
同月、エギーユ・デラーズ、アクシズ行きを拒む公国軍残党を糾合、艦隊再編制(デラーズ・フリート)。
03
エギーユ・デラーズ、艦隊を暗礁宙域へ移動。繋留基地「茨の園」の設営に入る。対外的な活動は一時休止する。
0081 08 15 デラーズ・フリート、「ジオン公国国慶節」を機にゲリラ活動開始。
09
デラーズ・フリートのゲリラ活動、小規模ながら続行。この頃からアナハイム・エレクトロニクス社との接触が活発になる。
17 フォン・ブラウン市に潜伏していたアナベル・ガトー大尉、「茨の園」のデラーズ・フリートと合流(少佐へ昇進)。
11
デラーズ・フリートとアクシズ、協力関係を結ぶ。
0082 12
デラーズ・フリート、「茨の園」内の工場プラントを利用したMS開発を計画。
0083 01
デラーズ・フリート、「ガンダム開発計画」を察知。アナハイム・エレクトロニクス社に工作員を潜入させる。
03 デラーズ中将、連邦勢力の安定化を懸念し、一大反攻作戦を立案。反連邦勢力への根回しを強化。
05 デラーズ・フリート、MS-21Cの生産を開始。
07 30 星の屑作戦計画、立案完了。
09
シーマ艦隊、デラーズ・フリートに参加する予定であったが、ガトー少佐とのいさかいから成らず。
10 9 アナベル・ガトー少佐、アフリカへ降下。地上の公国軍残党と合流する。

 デラーズ・フリートとは、エギーユ・デラーズ大佐(当時)を中心に集まった公国軍残党の名称です。
 一年戦争末期、ア・バオア・クー攻防戦の際にギレン・ザビ総帥戦死の報を受けたエギーユ・デラーズは、これが政敵であったキシリア・ザビ少将の企みによるものだと判断し、麾下の艦隊を率いて戦線を離脱します。それは、ギレン・ザビの信奉者であった彼にとって、公国の勝利とはギレンの掲げた政治的目標の成就であり、キシリアの率いる公国の勝利には何の興味もなかったからです。
 その後、他の残党と合流した彼らは、ジオン共和国政府を認めずに戦争はいまだ継続中であるという認識のもと、アクシズへ逃れずに地球圏にて抗戦を望む一部残党を加え、艦隊を再編成します。艦隊はエギーユ・デラーズ麾下の艦隊を中心とし、旧サイド5、ルウムの海域にある暗礁宙域へ移動し、一時的に対外活動を休止して、繋留基地「茨の園」の設営に入りました。
 エギーユ・デラーズは、麾下の将兵たちを月面都市やサイド6に潜伏させるという活動を宇宙世紀0081年8〜9月までの間に完了させ、ほぼ同時期の8月15日、ジオン公国国慶節(ジオン公国が「公国宣言」を行った日)を機にゲリラ活動を開始します。
 また、デラーズ・フリートはアナハイム・エレクトロニクス社からの援助を受けています。これは、連邦の地球優先の再建策による宇宙政策の停滞を感じていたアナハイム・エレクトロニクス社が、反地球連邦運動による宇宙政策の振興を求めていたためです。
 このようにして連邦への反攻の機会を伺っていたエギーユ・デラーズは、「連邦軍再建計画」によって連邦軍の戦力が整備されつつある事、アナハイム・エレクトロニクス社に潜り込ませた工作員から「ガンダム開発計画」の存在を知らされた事などを受け、星の屑作戦を立案、実施することとなります。この星の屑作戦の実施を中心とした一連の軍事行動を「デラーズ紛争」と呼称します。
 デラーズ紛争の際、地球上に散らばっていた公国軍残党や、アクシズ勢の一部がデラーズ・フリートに協力していますが、これはエギーユ・デラーズがずっと行っていた根回しの成果です。
 なお、デラーズ紛争終結後、残存戦力の多くはアクシズから派遣された先遣艦隊と合流して地球圏を脱出し、アクシズへと向かっています。



 デラーズ紛争

事柄
0083 10 13 アルビオン、RX-78GP01、RX-78GP02Aを載せ、地上試験のため、連邦軍オーストラリア・トリントン基地へ到着。デラーズ・フリート、「星の屑」作戦発動。核弾頭を搭載したRX-78GP02Aを奪取。

 宇宙世紀0083年10月13日、ガンダム試作1号機、ガンダム試作2号機の地上試験のためにオーストラリアのトリントン基地に駐留していたペガサス級強襲揚陸艦アルビオンに対し、公国軍残党が攻撃をしかけ、ガンダム試作2号機を強奪します。この「ガンダム試作2号機強奪事件」に端を発した、一連のデラーズ・フリートによる軍事行動のことを、こう呼びます。
 このデラーズ紛争は「機動戦士ガンダム0083」によって描かれており、ここで解説してしまうと作品のネタバレになってしまいますので、解説は省きます。具体的な内容は、実際に作品をご覧になってください。




 後編は、こちらへどうぞ。


 ▲TOP
Last Update 2005.06.03