機動戦士Ζガンダム・前史(後編)

 このページでは後編として、「デラーズ紛争終結〜機動戦士Ζガンダム第1話」までを解説したいと思います。



 ティターンズ結成

事柄
0083 11 16 連邦軍バスク・オム大佐、地球至上主義演説。
12 04 連邦軍内部にジャミトフ・ハイマン提唱により、地球圏治安維持部隊ティターンズ結成。
旧公国軍残党狩り活発化。

 連邦軍のジャミトフ・ハイマン准将の提案によって、地球圏の治安維持のためにジオン公国残党狩りを目的に創設された、連邦軍内の特殊部隊がティターンズです。
 ジャミトフ・ハイマンは、ジオン・ズム・ダイクン同様に、このままでは人類が地球を食いつぶしてしまうと考えていました。しかし、一年戦争での経験から、コロニー落としなどの地球環境を破壊する行動を平気で行えるスペースノイドには地球の再生は行えないと考え、選ばれたアースノイドによる地球圏の管理運営が、地球の真の再生のためには望ましいと考えるようになります。そんな中、デラーズ・フリートによるデラーズ紛争が起こるのですが、ジャミトフ・ハイマンはこれを利用してティターンズの設立を画策します。
 まず、自らの提案に興味を示したジーン・コリニー大将の力を利用して、ガンダム開発計画がデラーズ紛争に大きく関係して軍に多大な被害を与えた事を理由に、対立派閥のトップであったジョン・コーウェン中将の更迭に成功し、軍の中枢を掌握します。同時に、デラーズ紛争に対する対応をわざと後手後手に回らせることで、軍内部にジオン軍残党に対する積極的な対応が必要であるという認識を生ませました。それらの結果、ジーン・コリニー大将の後押しもあり、ティターンズは結成されることになったのです。

 ティターンズは、多様な状況に柔軟に対応できるようにと、通常の指揮系統から切り離されました。これは、ティターンズに公国軍残党の殲滅を任せることで、従来の軍組織をそのまま残せるという、軍の改革を拒んだ軍官僚の思惑と、組織の枠にとらわれない事を望んだジャミトフ・ハイマン両者の意向が合致したためです。しかし、この独自の指揮系統を持ってしまったことが、ティターンズの軍事、政治両面での暴走を生み出すこととなってしまいます。
 公国軍残党狩りの際には、ティターンズは他の連邦軍よりも上位に位置すると規定されました。この名目においては、連邦軍内部の機密事項の閲覧が可能であり、逆に、この任務を名目にすることで他の連邦軍からの干渉を拒み、ティターンズ内部の機密公開を拒否することが可能となったのです。さらに、公国軍残党狩りという任務の関係上、構成員が地球出身の地球育ちの者に限られたため、独自の指揮系統を有することと地球至上主義という背景が重なって、構成員のエリート意識を助長することとなりました。
 さらにジャミトフ・ハイマンは、ガンダム開発計画が公国軍残党に漏洩してた件を利用して、MSをティターンズ独自で開発する権利をも得ます。
 ジーン・コリニー大将の退役後、派閥のトップとなったジャミトフ・ハイマンはジーン・コリニー大将の後を受け継ぎ、政財界との繋がりも深めていくことで、連邦軍内におけるティターンズの地位を急速に高めていくのです。



 ガンダム開発計画・その後

事柄
0083 11 23 「デラーズ紛争」に関する軍事裁判開廷【デラーズ紛争終結】
0084 03 10 コロニー落着の真相とガンダム開発計画、ともに公式記録より抹消。関係者への賞罰も消滅。

 ガンダム開発計画はデラーズ紛争に大きく関係していたため、紛争の戦後処理において計画の存在を抹消されてしまいます。これに伴い、ガンダム開発計画によって得られた技術も封印が決定され、以後のMS開発は数年の後退を余儀なくされてしまいます。
 また、連邦軍はアナハイム・エレクトロニクス社から公国軍残党に機密が漏洩していた事を重視し、以後、機密性の高い兵器は民間企業との共同開発をやめ、軍内部での独自開発を選びます。この際、地球至上主義であるティターンズのもと、旧公国系の技術者を排して開発が行われています。U.C.0087、ティターンズはガンダムの名を冠するMSとしてRX-178「ガンダムMk-II」を開発しますが、この機体にはガンダム開発計画によって得られた技術が一切反映されていないMSとなっています。
 一方、連邦軍との共同開発からはずされてしまったアナハイム・エレクトロニクス社ですが、この計画によって得られた連邦と旧公国系技術の融合はとても大きく、技術的成果をそのまま活かすことは出来なかったものの技術者の発想を大きく刺激し、その事が80年代後半からはじまるMSの恐竜的進化の一因ともなりました。



 アクシズ

事柄
0079 12 31 ア・バオア・クー陥落。ギレン・ザビ総帥、キシリア・ザビ少将戦死。
0081 03 28 公国軍残党、小惑星基地アクシズに到着。
05 05 ゼナ・ザビ、アクシズで病死。
11
デラーズ・フリートとアクシズ、協力関係を結ぶ。
0083 08 09 アクシズの指導者、マハラジャ・カーン死去。
11 ハマーン・カーン、ミネバ・ザビの摂政に就任。デラーズ・フリートに厚意を示す。
09
アクシズ、新合金“ガンダリウムγ”の開発に成功。

 マハラジャ・カーンを中心にミネバ・ザビとゼナ・ザビを擁する公国軍残党は、小惑星基地アクシズに到着します。アクシズは、火星と木星との間にある小惑星帯(アステロイドベルト)に設けられた小惑星基地で、木星へ向かうヘリウム輸送船団の中継基地などに利用されていました。
 アクシズに到着した公国軍残党は、アクシズの要塞化と居住区の建設に着手します。アクシズにもともとあった居住スペースでは、アクシズに到着した残党が住むには足りなかったからです。また、アクシズの要塞化と共に、各種兵器の新規開発、艦艇の建造能力も付与されました。その過程の中で新技術の研究も行われ、アクシズはRX-78「ガンダム」に使用されたルナ・チタニウム合金を改良したガンダリウム合金の開発に成功しています。
 要塞化と居住区の建設等には2年の歳月を必要としました。その間、指導者であるマハラジャ・カーンは残党の生存を第一目標にしていましたが、これらの完成により目標は達成され、新たな目標が必要となります。しかし、それからすぐの宇宙世紀0083年8月9日にマハラジャ・カーンは急死してしまい、さらにその2年前になる宇宙世紀0081年5月5日にゼナ・ザビも病死してしまっていたため、アクシズは指導者不在という状態に陥ってしまいます。この指導者不在という状況は、地球圏から遠く離れ、いわば閉鎖状態にあるアクシズの人々の心に大きな不安を与えてしまい、それが不満に発展し、容易に恐慌状態に陥ってしまう可能性があります。
 そんな時、アクシズに逃れた残党の中にいて、一年戦争の英雄と讃えられていたシャア・アズナブルは、後任の指導者として、ミネバ・ザビの摂政にハマーン・カーンを推薦します。ハマーン・カーンは前の指導者であるマハラジャ・カーンの娘であり、姉はドズル・ザビの愛人でしたので、指導者になる資格は十分でした。しかし、彼女は当時16歳。アクシズの首脳部はハマーンの指導力に疑問を持ちましたが、シャア・アズナブルが補佐に付くと約束したため、ハマーンの摂政就任を了承しました。
 摂政に就任したハマーン・カーンは、「地球圏への帰還」と「ザビ家再興」を目標に掲げます。その時点でのアクシズに連邦に対抗するだけの戦力はありませんでしたが、このような将来的な目標を掲げたことは人々の心に大きく作用し、アクシズはハマーンのもと、急速にまとまっていきます。20歳にも満たない少女がこれらの事を為し得たのは、彼女が優れた指導力や洞察力、政治手腕を持った天才であり、優れたニュータイプであったからでしょう。
 その後、ハマーン・カーンはアクシズに、推進用の核パルスエンジンを設置します。これは小惑星基地アクシズそのものを地球圏へ到達させるという目的からでした。アクシズごと帰還し、そこを拠点とすることで、連邦と対決しようとしたのです。宇宙世紀0083年のデラーズ紛争の際、アクシズは先遣艦隊を送りましたが、これは本隊を送るには連邦との直接対決が時期尚早と判断されたからです。
 このようにしてハマーンのもと、地球圏へ帰還して連邦と対決すべく着々と準備が進められるアクシズでしたが、ハマーンの補佐役であったシャア・アズナブルは、ハマーンの掲げる「地球圏への帰還
」「ザビ家再興」が人々の心をまとめる方便ではないと知ると、じょじょにハマーンから距離を置くようになります。シャアの目指すものは「スペースノイドの自治権確立」と「ニュータイプとしての人類の覚醒」であり、それは「ザビ家再興」とは相容れないものだったからです。こうしてシャアは地球圏の情勢を探り軍事技術を入手するという名目のもとでアクシズから脱出し、ハマーンらとは行動を別にすることとなります。



 30バンチ事件

事柄
0084 06 17 連邦議会、各サイドの再編制の後、地球圏の現状維持を発表。
0085 07 31 30バンチ事件。ティターンズがサイド1・30バンチに毒ガスを注入し住民を虐殺。エゥーゴ(反地球連邦政府組織)、活動活発化。

 この頃、コロニー再生計画など宇宙を切り捨てたような政策を取る連邦政府への不満から、スペースノイドたちによって各地のコロニーでデモや集会が盛んに行われるようになりました。これらをティターンズは、デモや集会が公国軍残党の扇動によって行われたという名目で弾圧していきます。この弾圧の際にティターンズは独自に開発したMSを使用しました。なお、これら独自に開発されたMSは他部隊に回されることはありませんでした。ティターンズの任務が他部隊の任務に勝るという拡大解釈のためです。
 こうした中、宇宙世紀0085年7月31日に、サイド1の30バンチで大規模な反連邦集会が行われます。この事態を憂慮したサイド1政庁は、連邦の駐留軍に出動を要請します。要請を受けた駐留軍は、この任務が地球圏の治安維持に属するものと判断し、ティターンズへ出動を要請します。
 バスク・オム大佐指揮のもと出動したティターンズは、無警告でコロニーへ致死性の毒ガス(G3ガス)を注入します。これによって集会に参加した人にみならず、無関係な住民も含めた数百万人が死亡しました。また、ティターンズは報道管制を敷き、コロニー住民の大量死は激発性の伝染病によるものだと発表したのです。
 この事件は、連邦政府への不満を示すスペースノイドに対する恫喝になると同時に、連邦政府内部に対してもティターンズの力を示す強力な圧力となります。



 エゥーゴ結成

事柄
0084 09 21 シャア・アズナブル、地球圏に帰還。非合法に連邦軍の軍籍を取得。
0085 07 31 30バンチ事件。ティターンズがサイド1・30バンチに毒ガスを注入し住民を虐殺。エゥーゴ(反地球連邦政府組織)、活動活発化。

 ティターンズによって引き起こされた30バンチ事件を契機に、ティターンズを憂慮する勢力が反連邦政府運動の名のもと、それらの勢力が一つにまとまっていきます。それと同時に、ティターンズの専横に反抗する連邦軍内部の勢力、宇宙政策の後退に困惑する月企業連合体をはじめとする財界、ティターンズによる連邦の軍事統制国家化を懸念する政界の参加によって、エゥーゴ(反地球連邦政府組織A.E.U.G=Anti Earth Union Government)が結成されることとなります。反地球連邦政府組織という名称ですが、実質的には反ティターンズ組織です。指導者には、連邦軍内部に籍を置くブレックス・フォーラ准将がつきました。
 エゥーゴのスポンサーとなった月企業連合体は、連邦軍から次々と軍人を引き抜き、エゥーゴの規模は拡大していきます。また、アナハイム・エレクトロニクス社のメラニー・ヒュー・カーバイン会長もエゥーゴのスポンサーであったため、アナハイム・エレクトロニクス社が全面的にバックアップして、エゥーゴのためのMSや艦船などが用意されていきます。
 さらに、アクシズより地球圏へと帰還したシャア・アズナブルが、連邦軍のクワトロ・バジーナを名乗りエゥーゴに参加します。その際、アクシズよりガンダリウム・γ合金を持ち帰ったため、エゥーゴのMSにはこの新合金が使用され、ガンダリウム合金の用いられていないティターンズのMSよりも優れた性能を持つようになります。
 このようにして、エゥーゴは地球圏においてティターンズに対抗できうる唯一の存在となっていくのです。



 グリプス戦役へ

事柄
0085 09 08 グリプス2、サイド7に建設される。
0086 02 06 アクシズ、地球に向けて発進。
0087 03 02 エゥーゴ、グリプス1より試作MS3機を強奪。

 宇宙世紀0085年9月8日、サイド7にコロニー、グリーン・ノア2(後のグリプス)が建設されます。このコロニーはティターンズの軍事基地であり、スペースノイドの住むすぐ近くに軍事基地を作ったという事実が、スペースノイドの反感を買い、ティターンズとエゥーゴの緊張は高まっていきます。また、新規コロニーをそのまま独自の軍事基地に出来てしまうほど、連邦軍内におけるティターンズの地位は高まっており、実質、ティターンズが連邦軍全体を支配している状況となっていました。
 そんな中、アクシズはハマーン・カーンが成人になったのを受け、宇宙世紀0086年2月6日に地球圏への帰還を開始します。ティターンズとエゥーゴとが緊張関係にあるという地球圏の混乱に乗じて、ザビ家再興の名のもとに地球圏全体を支配するのが目的です。
 そして宇宙世紀0087年。ティターンズが新型ガンダム「ガンダムMk-II」をグリーン・ノア2において開発しているという情報を入手したエゥーゴは、ガンダムMk-IIの強奪作戦を計画します。グリーン・ノア2の実状を調査すると同時に、一年戦争において伝説となり、連邦軍の象徴である「ガンダム」の名を冠するMSをティターンズが使用することは、ティターンズこそが連邦軍そのものであるということにもなりますので、それを許すことが出来なかったのです。
 そして宇宙世紀0087年3月2日、エゥーゴは新造艦アーガマと新型MSリック・ディアス3機を投入して、ガンダムMk-IIを強奪します。これにより、ティターンズとエゥーゴは軍事的に対立状態となり、後に「グリプス戦役」と呼ばれる戦乱が始まることとなるのです。

 ……と、このエピソードが「機動戦士Ζガンダム」の第1話「黒いガンダム」になります。以降のエピソードについては、「機動戦士Ζガンダム」をご覧ください。




  以上で、「機動戦士Ζガンダム・前史」は終了です。


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Last Update 2005.06.03